「IT導入補助金を使ってウイルス対策ソフトを導入したい」と業者へ相談したものの、どの製品が対象なのか分からない。2026年度はセキュリティ対策専用の申請枠がありますが、市販製品を自由に選べる制度ではありません。この記事では、対象サービスの条件と申請前に確認すべきポイントを解説します。
| この記事の結論 IT導入補助金は、セキュリティ対策に利用できます。2026年度の「セキュリティ対策推進枠」では、IPAの「サイバーセキュリティお助け隊サービスリスト」に掲載され、さらにIT導入支援事業者が補助金事務局へ登録しているサービスが対象です。補助額は5万円から150万円、補助率は中小企業が2分の1以内、小規模事業者が3分の2以内です。対象となるサービス利用料は最大2年分です。製品を先に購入・契約せず、対象サービス、ITツール番号、支援事業者を確認してください。 |
IT導入補助金でセキュリティ対策は対象になる
2026年度の正式名称は「デジタル化・AI導入補助金」です。中小企業や小規模事業者がITツールを導入し、業務のデジタル化や生産性向上を進めるための制度です。セキュリティ対策に利用する場合は、主に「セキュリティ対策推進枠」を検討します。
| 項目 | 2026年度の主な内容 |
| 申請枠 | セキュリティ対策推進枠 |
| 対象者 | 中小企業・小規模事業者等 |
| 補助額 | 5万円から150万円 |
| 中小企業の補助率 | 2分の1以内 |
| 小規模事業者の補助率 | 3分の2以内 |
| 対象経費 | 対象ITツールの導入費用、サービス利用料 |
| 対象期間 | 最大2年分 |
| 主な条件 | IPAのお助け隊サービスリスト掲載かつ、補助金事務局へ登録されたサービス |
制度の目的は、セキュリティ対策の導入費用の一部を補助し、サイバーインシデントによって事業継続が難しくなるリスクなどを低減することです。
| 社長と担当者の会話 社長「市販のウイルス対策ソフトを買えば、あとから補助金を受け取れるのか?」 担当者「どの製品でもよいわけではありません。対象サービスと提供事業者の両方を、契約前に確認する必要があります」 社長「先に買わず、対象になる組み合わせを探すのが最初なんだな」 |
対象になるのは「サイバーセキュリティお助け隊サービス」
セキュリティ対策推進枠で単独申請できるのは、次の2条件を満たすサービスです。
- IPAの「サイバーセキュリティお助け隊サービスリスト」に掲載されている
- IT導入支援事業者が、2026年度の対象ITツールとして補助金事務局へ登録している
つまり、IPAのリストに掲載されているだけでは足りません。同じサービス名でも、提供する会社や契約プラン、ITツールの登録状況によっては申請対象にならない可能性があります。最終的には、2026年度のITツール番号まで確認します。
お助け隊サービスとは
サイバーセキュリティお助け隊サービスは、中小企業向けに必要な対策をまとめて提供するサービスです。サービスごとに内容は異なりますが、次のような支援が組み合わされている場合があります。
- パソコンやサーバーの異常検知
- ネットワーク通信の監視
- ウイルスやマルウェアへの対策
- EDRによる端末監視
- 異常発生時の通知
- セキュリティ事業者への相談
- インシデント発生時の初動支援
- 定期的なレポート
- サイバー保険の付帯
EDRとは、パソコンやサーバーの動作を監視し、不審な挙動を検知・調査する仕組みです。ただし、「EDR」と書かれた製品なら自動的に対象になるわけではありません。製品の種類ではなく、対象年度の登録状況で判断してください。
| 外部IT業者への確認文 「このサービスは、デジタル化・AI導入補助金2026のセキュリティ対策推進枠に登録されていますか。ITツール番号、正式なITツール名、申請を支援するIT導入支援事業者名を教えてください」 口頭だけでなく、メールや見積書など、あとから確認できる方法で回答を残してもらいましょう。 |
セキュリティ関連でも対象にならない可能性があるもの
セキュリティに関係する支出であっても、すべてがセキュリティ対策推進枠の対象になるわけではありません。
| 導入したいもの | 確認すべきこと |
| 市販のウイルス対策ソフト | 対象ITツールとして登録されているか |
| EDR製品 | 対象サービスの登録内容に含まれているか |
| パソコン本体 | セキュリティ対策推進枠の対象サービスとは別に判断 |
| NAS・外付けHDD | 機器単体の購入では原則として同枠の対象とは判断できない |
| Wi-Fiルーター | 対象ITツールの構成に含まれるか |
| 防犯カメラ | サイバーセキュリティ対策とは別の設備として確認 |
| 社員研修だけの契約 | 登録サービスの範囲に含まれるか |
| セキュリティ診断だけの契約 | 対象サービスとして登録されているか |
| クラウドサービスの直接契約 | 登録されたIT導入支援事業者経由か |
| 交付決定前に契約したサービス | 補助対象外となる可能性がある |
通常枠では、登録要件を満たすソフトウェア購入費、クラウド利用料、導入関連費などが対象になります。一方、セキュリティ対策推進枠は、サイバーセキュリティお助け隊サービスを対象とする専用枠です。どの枠で申請するかは、導入目的とITツールの登録区分を支援事業者へ確認してください。
IT導入補助金を申請する7つの手順
手順1.解決したい問題を3つ書き出す
最初に、導入したい製品ではなく、解決したい問題を整理します。
- 不審な通信を社内で発見できない
- セキュリティ警告を判断できる人がいない
- 事故時の相談先が決まっていない
- 取引先から監視体制を聞かれている
- 持ち出しパソコンの状況を把握できない
| 実務上の確認 担当者:社長、総務担当者、兼任IT担当者 完了基準:解決したい問題が3項目程度に整理されている 記録するもの:現在の対策、困っていること、対象端末数、希望する支援 |
手順2.対象端末と利用環境を一覧にする
見積もりを依頼する前に、次の情報を整理します。
- パソコンの台数
- サーバーの台数
- 拠点数
- 利用しているOS
- テレワーク端末の有無
- 現在のウイルス対策製品
- 契約中の保守会社
- 重要データの保存場所
| 実務上の確認 完了基準:見積もり対象となる機器、利用場所、拠点数を説明できる 記録するもの:資産名、台数、利用場所、管理担当者 |
手順3.候補サービスの対象登録を確認する
IPAのお助け隊サービスリストと、補助金事務局の登録ITツールを確認します。
| 確認項目 | 外部業者への質問例 |
| 補助金登録 | 2026年度の対象ITツールとして登録されていますか |
| ITツール情報 | ITツール番号と正式名称を教えてください |
| 監視対象 | どこまで監視しますか |
| 対応時間 | 夜間や休日にも検知・連絡されますか |
| 通知方法 | 誰へ、どの方法で連絡されますか |
| 初動支援 | 隔離や原因調査は含まれますか |
| 訪問対応 | 現地対応は含まれますか。別料金ですか |
| 復旧支援 | 復旧は契約範囲ですか |
| 保険 | サイバー保険は付帯しますか |
| 契約期間 | 補助対象期間の終了後も自動更新されますか |
| 解約条件 | 最低利用期間や違約金はありますか |
| 実務上の確認 完了基準:ITツール名、番号、支援事業者、費用、支援範囲が確認できている |
手順4.GビズIDを確認する
補助金の電子申請では、GビズIDを使用します。2026年4月1日からSECURITY ACTIONの申込方法が変更され、新しい管理システムの利用にはGビズIDプライムまたはGビズIDメンバーが必要です。補助金申請に使用するGビズIDで、SECURITY ACTIONの自己宣言を申し込みます。
- GビズIDを取得しているか
- ログインできるか
- 管理者は誰か
- 登録メールを受信できるか
- 法人情報に変更がないか
- 担当者の退職や異動時に引き継げるか
| 実務上の確認 完了基準:実際に申請で使用するGビズIDでログインできる |
手順5.SECURITY ACTIONを宣言する
2026年度の補助金申請では、SECURITY ACTIONの「一つ星」または「二つ星」の自己宣言が申請要件です。一つ星は基本的なセキュリティ対策への取組を始める段階、二つ星は自社診断を行い、情報セキュリティ基本方針を外部公開する段階です。SECURITY ACTIONは認証制度ではないため、「取得した」ではなく「宣言した」と表現します。
| 実務上の確認 2026年3月以前に自己宣言している会社も、補助金申請に使うGビズIDを用いて、新しいSECURITY ACTION管理システムから申し込む必要があるかを確認してください。 |
手順6.IT導入支援事業者と申請内容を作成する
申請は、IT導入支援事業者と連携して進めます。
- 最新の公募要領を確認する
- IT導入支援事業者へ相談する
- 対象ITツールを決める
- 事業計画を作成する
- 電子申請を行う
- 審査と交付決定を待つ
- 交付決定後に発注・契約する
- サービスを導入する
- 事業実績を報告する
- 補助金を受け取る
| 実務上の確認 完了基準:社長または社内担当者が、申請内容と費用を説明できる 記録するもの:申請書、見積書、ITツール情報、連絡履歴、提出日 |
手順7.交付決定後に契約・導入する
補助金を申請しただけでは、契約や導入を始めないようにします。正式な交付決定を確認したあと、定められた事業実施期間内に発注、契約、支払い、導入を進めます。交付決定前の発注や契約は、補助対象として認められない可能性があります。
| 実務上の確認 保管するもの:契約書、注文書・注文請書、請求書、支払記録、導入日・利用開始日が分かる資料、支援事業者との連絡記録 |
2026年度の直近スケジュール
2026年8月13日時点で、セキュリティ対策推進枠の4次締切は次のとおりです。今後の日程や内容が変更される可能性があるため、申請時は公式ページを再確認してください。
| 項目 | 日程 |
| 4次締切 | 2026年8月25日17時 |
| 交付決定 | 2026年10月7日予定 |
| 事業実施期間 | 交付決定後から2027年3月31日17時までの予定 |
| 事業実績報告期限 | 2027年3月31日17時予定 |
補助額と自己負担の考え方
仮に、補助対象となるサービス利用料が2年間で120万円だった場合、補助率だけを使った単純な試算は次のようになります。
| 事業者 | 対象経費の例 | 補助率 | 補助額の試算 | 自己負担の試算 |
| 中小企業 | 120万円 | 1/2以内 | 60万円 | 60万円以上 |
| 小規模事業者 | 120万円 | 2/3以内 | 80万円 | 40万円以上 |
これは制度を理解するための計算例です。実際の自己負担額は、対象外経費、消費税、審査結果などによって変わります。また、補助金が入金されるまでの支払い資金も必要です。補助対象額、対象外の初期費用、消費税、受領までの支払額、補助期間終了後の年間利用料、解約や更新費用を分けて見積もりましょう。
IT導入補助金の申請でよくある7つの失敗
1.市販製品なら何でも対象になると思う
同じ製品でも、提供事業者やプランによって登録状況が違う可能性があります。ITツール番号まで確認してください。
2.交付決定前に契約してしまう
対象外になる可能性があります。申請、交付決定、契約、導入の順番を書面で確認しましょう。
3.補助対象かどうかだけでサービスを選ぶ
「何を検知したら、誰へ、どの方法で連絡し、どこまで対応してもらえるか」を確認します。
4.申請内容を外部業者へ任せきる
社長または担当者が、導入目的、申請金額、自己負担額、契約期間、運用方法を確認してください。
5.補助期間終了後の費用を確認しない
3年目以降の料金、自動更新の有無、解約条件を導入前に確認します。
6.SECURITY ACTIONを認証制度だと思う
自己宣言制度です。宣言後も、OS更新、バックアップ、アカウント管理、社員教育などは引き続き必要です。
7.通常枠とセキュリティ対策推進枠を混同する
「どの枠で、どのITツールとして、どの費用を申請するのか」をIT導入支援事業者へ確認してください。
よくある質問
Q1.ウイルス対策ソフトの購入に使えますか?
登録された対象サービスであれば、利用できる可能性があります。市販のウイルス対策ソフトを自由に購入し、あとから申請できる制度ではありません。IPAのお助け隊サービスリストへの掲載と、2026年度のITツール登録を確認してください。
Q2.EDRの導入にも使えますか?
EDR機能を含む登録サービスであれば、対象になる可能性があります。「EDR」という製品分類だけでは判断できません。ITツール名、提供事業者、プラン、登録番号まで確認します。
Q3.外付けHDDやNASの購入にも使えますか?
機器だけの購入が、セキュリティ対策推進枠の対象になるとは限りません。対象ITツールの構成に含まれるのか、通常枠や別の支援制度を検討すべきかを確認してください。
Q4.申請は自社だけでできますか?
IT導入支援事業者と連携して申請します。ただし、すべてを業者へ任せるのではなく、導入目的、申請内容、費用、契約期間、運用方法を自社でも確認してください。
Q5.採択されれば無料で導入できますか?
無料にはなりません。中小企業は対象経費の2分の1以上、小規模事業者は3分の1以上が自己負担となる計算です。消費税、対象外経費、補助期間終了後の費用も確認します。
Q6.SECURITY ACTIONは二つ星でなければ申請できませんか?
2026年度は、一つ星または二つ星のいずれかの宣言が申請要件です。補助金申請に使用するGビズIDで、新しいSECURITY ACTION管理システムから申し込む必要があります。申請時点の公募要領とIPAの案内を確認してください。
まとめ
IT導入補助金は、セキュリティ対策に利用できます。2026年度は「デジタル化・AI導入補助金」のセキュリティ対策推進枠として実施され、補助額は5万円から150万円、サービス利用料は最大2年分が対象です。
ただし、対象になるのは、IPAのサイバーセキュリティお助け隊サービスリストに掲載され、IT導入支援事業者が2026年度の対象ITツールとして登録しているサービスです。市販のセキュリティ製品を自由に購入できる制度ではありません。
まずは今週中に、次の3つを進めましょう。
- 自社が困っているセキュリティ上の問題を3つ書き出す
- 対象となるパソコン、サーバー、拠点数を確認する
- 候補サービスのITツール番号とIT導入支援事業者を確認する

