
パソコン苦手なのに会社のセキュリティを担当するように言われちゃいました



この記事では中小企業が何から始めるかを5つに絞って説明するよ
小さい会社だから狙われない?
ニュースでは、次のような被害がたびたび報じられています。
- 顧客情報の漏えい
- ランサムウェアによる業務停止
- メールへの不正アクセス
- 取引先を装った送金詐欺
- ウイルス感染によるデータ消失
こうしたニュースを見ても、
「被害に遭うのは有名な大企業だけでしょ?」
と思っている方もいるかもしれません。
しかし、サイバー攻撃を行う犯罪者が見ているのは、会社の知名度や従業員数だけではありません。
攻撃者は、入りやすい会社を探しています。
例えば、次のような会社です。
- 同じパスワードを複数のサービスで使っている
- パソコンの更新を何カ月も後回しにしている
- 退職者のメールアカウントが残っている
- 古いWi-Fiルーターを使い続けている
- 重要なデータをパソコンの中だけに保存している
一つひとつは、よくある小さな問題に見えます。
ところが攻撃者にとっては、その小さな問題が、会社へ侵入するための入口になることがあります。



うちなんて社員数10人ですよ



空き巣は豪邸だけではなく、鍵の開いている家ならどこでも狙いますよ
セキュリティ対策とは何を守るもの
セキュリティ対策と聞くと、ウイルス対策ソフトやファイアウォールなど、機械やシステムの話を想像しがちです。
しかし、本当に守りたいのは機械そのものではありません。
会社の大切な情報と、毎日の仕事です。
会社には、気づかないうちにたくさんの重要な情報が集まっています。
- 顧客の氏名や連絡先
- 見積書や契約書
- 商品や部品の設計図
- 社員の給与や個人情報
- 取引先とのメール
- 会計や請求のデータ
- WebサイトやSNSのアカウント
例えば、月末の忙しい日に、請求書のデータがすべて開けなくなったらどうなるでしょうか。
請求が遅れ、入金も遅れるかもしれません。
顧客の連絡先が分からなくなれば、おわびの連絡すらできない可能性があります。
さらに情報が外部へ流出すれば、取引先への説明や調査、再発防止にも対応しなければなりません。
大切な情報が使えなくなる
↓
受注・請求・製造などの業務が止まる
↓
顧客や取引先への説明が必要になる
↓
復旧費用や売上減少が発生する
↓
会社の信用にも影響する
つまり、セキュリティ対策はパソコンだけの問題ではありません。
会社の仕事と信用を守るための経営対策なのです。
中小企業がまずやるべきセキュリティ対策5選
IPAでは、2026年に中小企業が最初に取り組む対策を「情報セキュリティ6か条」として整理しています。本記事では、その内容を踏まえながら、セキュリティ担当者がいない会社でも進めやすいように5つの実務項目にまとめました。
中小企業が基本として取り組みたい対策は、次の5つです。
① 社内ルールと管理する人を決める
② パスワードを見直し、多要素認証を使う
③ パソコンや機器を最新の状態にする
④ データの共有範囲とバックアップを確認する
⑤ 怪しいメールを相談できる会社にする
ここからは、それぞれの対策がなぜ必要なのかを、身近な場面に置き換えて見ていきましょう。
対策① 社内ルールと管理する人を決める
最初に必要なのは、高価なセキュリティ製品ではありません。
まずは、会社の情報をどのように扱うかというルールです。
例えば、ある社員が取引先から受け取ったデータを、自宅でも作業できるように私物のUSBメモリへ保存したとします。
本人に悪意はありません。
「仕事を早く終わらせたい」という気持ちから行ったことかもしれません。
ところが、そのUSBメモリを電車の中で落としてしまったらどうなるでしょうか。
会社が「私物USBへ保存してはいけない」というルールを決めていなければ、その社員だけを責めることもできません。
ルールがなければ、社員はそれぞれの判断で行動するしかないからです。
ルールがない会社で起こりやすいこと
- 私物のUSBメモリへ顧客情報を保存する
- 会社のファイルを私物のパソコンへ送る
- 退職した社員のアカウントが残り続ける
- パスワードを机の付箋に書いておく
- 全社員がすべての共有フォルダを閲覧できる
- 問題が起きても、誰に伝えればよいか分からない
完璧なセキュリティ規程を、いきなり作る必要はありません。
最初は、次のような基本事項を社内で共有するだけでも違います。
- パスワードを使い回さない
- 不審なメールは開く前に相談する
- 会社のデータを私物端末へ保存しない
- 退職者のアカウントを削除する
- トラブルが起きたときの連絡先を決める
また、専任のセキュリティ担当者を雇えなくても、誰が確認するのかは決めておきましょう。
社長や総務担当者が窓口になり、分からない部分だけをIT会社や専門家へ相談する方法でも構いません。



これなら私でもできますね
対策② パスワードを見直し、多要素認証を使う
パスワードは、会社の情報へ入るための鍵です。
ところが、実際の会社では次のような使い方が珍しくありません。
- 社名と設立年を組み合わせている
- 複数のサービスで同じパスワードを使っている
- 複数の社員で一つのアカウントを共有している
- 初期パスワードから一度も変更していない
- 退職した社員もパスワードを知っている
例えば、会社のメールとネット通販で同じパスワードを使っていたとします。
ネット通販側からパスワードが漏れると、攻撃者はそのパスワードを使って、会社のメールにもログインを試みます。
これは、会社の玄関と金庫に同じ鍵を使っているようなものです。
一つの鍵を盗まれるだけで、ほかの場所まで開けられてしまいます。
パスワードだけでは守れないこともある
パスワードを複雑にしても、偽のログイン画面に入力してしまえば、攻撃者に知られる可能性があります。
そこで役に立つのが、多要素認証です。
多要素認証とは、パスワードに加えて、スマートフォンや認証アプリなどで本人確認を行う仕組みです。
銀行アプリなどで、ログイン時にスマートフォンへ通知が届いた経験がある方もいるでしょう。
仕組みは、玄関に二つ目の鍵を付けるイメージです。
特に優先したいのは、会社のメールです。
メールへ不正ログインされると、過去のやり取りや添付ファイルを見られるだけではありません。
取引先との会話を盗み見たうえで、本人になりすましたメールを送られる可能性もあります。
Microsoft 365やGoogle Workspace、クラウド会計、オンラインストレージ、Webサイトの管理画面など、重要なサービスでは多要素認証を設定しておきましょう。
対策③ パソコンや機器を最新の状態にする
仕事をしている最中に、
「更新して再起動してください」
と表示されると、少し面倒に感じます。
今は忙しいからと、「後で更新する」を押したまま、何週間も経過していることもあるでしょう。
しかし、パソコンやソフトの更新には、新しい機能を追加するだけでなく、見つかったセキュリティ上の弱点を修正する役割があります。
このセキュリティ上の弱点を「脆弱性」と呼びます。
難しそうな言葉ですが、建物に置き換えると理解しやすくなります。
ある日、窓の鍵が壊れていることが分かり、メーカーから無料の修理部品が届いたとします。
ところが、「今も窓は閉まっているから大丈夫」と修理を後回しにしていたらどうでしょうか。
泥棒に壊れた鍵の存在を知られれば、そこから侵入されるかもしれません。
パソコンの更新も、これとよく似ています。
パソコン以外も忘れやすい
注意したいのは、WindowsやmacOSだけではありません。
- WordやExcelなどのソフト
- Webブラウザ
- ウイルス対策ソフト
- Wi-Fiルーター
- NAS
- サーバー
- VPN
- ファイアウォール
こうした機器やソフトにも、更新が必要な場合があります。
特にWi-FiルーターやNASは、一度設置すると「壊れるまで触らない機器」になりがちです。
見た目は問題なく動いていても、安全な状態とは限りません。
対策④ データの共有範囲とバックアップを確認する
会社のデータを守るためには、二つの視点が必要です。
- 必要のない人には見せない
- 消えても元に戻せるようにする
全員が見られる共有フォルダは便利だけど……
共有フォルダを細かく設定するのが面倒で、全社員がすべてのデータを見られる状態になっていないでしょうか。
確かに、誰でも見られる方が日常業務は楽です。
しかし、営業担当者が給与情報を見る必要はありませんし、新入社員が過去のすべての顧客データへアクセスできる必要もありません。
必要以上の人に権限を与えていると、一人のアカウントが不正利用されただけで、広い範囲のデータを見られる可能性があります。
部署や担当業務に応じて、必要な人だけが必要なファイルを見られる状態が理想です。
バックアップは会社の「予備の鍵」
データはサイバー攻撃だけで消えるわけではありません。
- 間違えてファイルを削除した
- 古いデータを上書きした
- パソコンが突然故障した
- 飲み物をこぼして機器が壊れた
- 火災や災害で事務所の機器が使えなくなった
こうした日常的なトラブルでも、会社のデータは失われます。
バックアップとは、大切なデータの予備を、別の場所へ保存しておくことです。
ただし、バックアップは「取っているつもり」になりやすい対策でもあります。
自動保存を設定したまま誰も確認せず、必要になったときに初めて、何カ月も前から保存が止まっていたことに気づくケースもあります。
大切なのは、保存するだけでなく、実際に元へ戻せる状態にしておくことです。
対策⑤ 怪しいメールを相談できる会社にする
取引先から、次のようなメールが届いたとします。
件名:請求書送付のご連絡
いつもお世話になっております。
今月分の請求書を添付しましたので、ご確認ください。
文章も自然で、送信者名にも見覚えがあります。
忙しい月末であれば、そのまま添付ファイルを開いてしまうかもしれません。
しかし、実は取引先を装った偽メールだったらどうでしょうか。
偽メールには、次のような種類があります。
- 請求書を装ったメール
- 宅配業者を装った配送通知
- Microsoftなどを装った警告
- パスワード変更を求めるメール
- 取引先を装った振込先変更の依頼
最近の偽メールは、本物と見分けにくいものがあります。
そのため、社員全員に「怪しいメールを完璧に見抜いてください」と求めるのは現実的ではありません。
重要なのは、見抜く能力よりも、迷ったときにいったん止まれることです。
もう一つ大切なのは、誤って開いてしまった場合の雰囲気です。
「怪しいメールを開いたら怒られる」と社員が思っていると、問題を隠してしまうかもしれません。
報告が遅れるほど、被害が広がる可能性があります。
開いてしまったことを責めるよりも、早く報告したことを評価する会社の方が、セキュリティ事故へ対応しやすくなります。
セキュリティ対策は一つだけでは守れない
ここまで読んで、
「結局、どの対策が一番大切なの?」
と思った方もいるかもしれません。
しかし、セキュリティ対策は一つだけで完結するものではありません。
例えば、頑丈なパスワードを設定していても、古い機器の弱点から侵入されるかもしれません。
パソコンを最新にしていても、偽メールにパスワードを入力してしまう可能性があります。
さらに侵入を防げても、操作ミスでデータを削除することはあります。
そのため、複数の対策を重ねることが重要です。
これは、会社の建物を守ることと同じです。
玄関の鍵だけでなく、窓の鍵、防犯カメラ、金庫、異常があったときの連絡先を用意することで、全体として安全性が高まります。
質問コーナー
- セキュリティ対策にはどれくらい費用が掛かりますか?
-
最初から高額な製品を導入する必要はありません。
まずは、自動更新、多要素認証、アカウント整理、共有設定の見直しなど、現在利用しているサービスの機能から確認します。
- セキュリティ担当者がいない場合はどうすればよいですか?
-
専任でなくても、社内の相談窓口を1人決めてください。
難しい設定や事故対応のみ、IT事業者や専門家へ相談する方法があります。
- 最初に1つだけ行うなら何ですか?
-
重要データのバックアップ状況を優先して確認してください。
参考文献・参照サイト
本記事で解説した「まずやるべき5つの対策」の具体的な実践手順や、中小企業が最低限導入すべきセキュリティ基準は、以下の公的機関・専門団体の公式資料を基にしています。
国や公的機関が提供するセキュリティガイド
- IPA 中小企業情報セキュリティ対策ガイドライン
独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が公開している基本指針です。専門知識がない事業者でも、自社の安全性を自己診断できる「5分でできる!情報セキュリティ自社診断」などが用意されています。 - 情報セキュリティ5か条(IPA)
本記事で紹介した「OSの更新」「ウイルス対策」「強固なパスワード」「共有設定」「不審メール対策」の5項目に対応する、IPA推奨の最も基本的なセキュリティ実践マークです。 - 総務省 国民のための情報セキュリティサイト
パスワードの適切な設定方法や、多要素認証(二段階認証)の仕組み、Wi-Fiルーターなどの機器管理の重要性について、初心者向けに分かりやすく図解している国の公的情報ポータルです。
偽メール・サイバー攻撃の最新動向
- フィッシング対策協議会 公式サイト
実在する企業や取引先を装った「請求書メール」や「警告メール」など、国内で現在流行している不審メールの具体例や緊急情報をリアルタイムに確認できる専門機関のサイトです。 - 警察庁 サイバー警察局(サイバー犯罪対策)
中小企業を狙ったサイバー攻撃の手口や、万が一怪しいメールの添付ファイルを開いてしまったり、実害が発生したりした場合の相談・通報窓口が案内されています。





