会社のパスワード管理と多要素認証の始め方|担当者がいなくても進められる手順

多数のパスワード管理に困る担当者と中小企業向け多要素認証の導入方法のイラスト

「社員ごとにパスワードの管理方法が違う」「取引先から多要素認証の実施状況を聞かれたが、どのサービスに設定されているか分からない」。このような悩みを抱えている中小企業は少なくありません。

パスワードを複雑にするよう社員へ呼びかけるだけでは、使い回しや共有アカウント、管理者不明といった問題は解消できません。また、多要素認証を一部の社員が設定していても、会社として登録状況を確認できなければ、未設定のアカウントが残ります。

中小企業が最初に行うことは、高額な製品の購入ではありません。総務担当者やIT兼任担当者が利用中のサービスと管理者を一覧にし、メールと管理者アカウントから多要素認証を設定します。その後、パスワード管理ツールや社内ルールを整え、全社員へ段階的に広げます。

この記事では、専任担当者がいない会社でも進められるように、パスワード管理と多要素認証の導入方法を順番に解説します。

この記事の結論

結論
最初の一歩は、パスワードそのものを集めることではありません。「サービス名・利用者・管理者・多要素認証の設定状況」を一覧にすることです。
  1. 業務で利用するサービスとアカウントを一覧にする
  2. 管理者、メール、VPN、会計などの重要アカウントを特定する
  3. パスワードの使い回しと共有アカウントを見直す
  4. 会社が認めるパスワード管理方法を決める
  5. 管理者とメールから多要素認証を設定する
  6. 紛失や機種変更に備えた復旧方法を用意する
  7. 全社員へ展開し、設定状況を記録する

IPAは、不正ログイン対策として、パスワードを長く複雑にし、複数のサービスで使い回さないことに加え、多要素認証の設定を推奨しています。

目次

パスワード管理は社員任せにしない

現場でよくある会話
社長「パスワードは社員それぞれが覚えていればよいんじゃないか?」
担当者「個人に任せきると、使い回しや退職時の引き継ぎ状況を会社で確認できません。」
社長「パスワードの文字列ではなく、管理方法を会社で決める必要があるんだな。」

会社が管理すべきなのは、社員一人ひとりのパスワードそのものではありません。次のような運用ルールです。

  • どのサービスを業務利用してよいか
  • アカウントを誰が発行するか
  • 管理者権限を誰が持つか
  • パスワードをどのように保管するか
  • 共有アカウントを認めるか
  • 多要素認証を必須にするサービス
  • 端末紛失時の連絡先
  • 入社、異動、退職時の変更手順
  • 漏えいが疑われた場合の報告先

社員のパスワードをExcelや紙へ集めると、その一覧自体が重要な機密情報になります。会社はパスワードの中身を集めるのではなく、ルールへの適合と多要素認証の登録状況を管理します。

安全なパスワード管理の基本

総務省は、推測されにくいパスワードを使い、他人に教えず、メールでやり取りせず、複数サービスで使い回さないよう案内しています。また、パスワード管理ツールの利用も選択肢として示しています。

サービスごとに異なるパスワードを使う

強いパスワードであっても、複数のサービスで使い回していれば安心できません。あるサービスからIDとパスワードが漏えいすると、その組み合わせをほかのサービスでも試される可能性があるためです。

  • 業務用メール
  • Microsoft 365やGoogle Workspace
  • VPNやリモート接続
  • 会計・給与・販売管理システム
  • インターネットバンキング
  • Webサイトやドメインの管理画面
  • クラウドストレージ
  • パスワード管理ツール

推測されやすい情報を使わない

  • 会社名と現在の年
  • 氏名や社員番号
  • 生年月日や電話番号
  • 「password」などの一般的な単語
  • 「123456」や「qwerty」などの単純な並び
  • 初期パスワード
  • 以前のパスワードの末尾だけを変えたもの

文字の種類だけでなく、十分な長さ、推測されにくさ、使い回しの有無をまとめて確認します。

定期変更だけを目的にしない

漏えいした事実がないのに短期間で変更を繰り返すと、末尾の数字だけを変えるなど、パスワードが単純なパターンになることがあります。総務省は、定期的に変更することよりも、サービスごとに固有のパスワードを設定し、流出時に速やかに変更する考え方を案内しています。ただし、利用サービスや取引先との契約で変更ルールが定められている場合は、その条件も確認してください。

パスワード管理ツールを導入するときの確認項目

複数の長いパスワードを社員がすべて暗記するのは現実的ではありません。パスワード管理ツールを使うと、サービスごとに異なるパスワードを生成・保存しやすくなります。

確認項目確認する内容
契約者会社契約か、社員個人の契約か
管理機能利用者の追加・削除を管理者が行えるか
多要素認証管理ツール自体に設定できるか
共有方法パスワードの文字列を見せずに共有できるか
退職時の対応保存情報を会社へ引き継げるか
復旧方法マスターパスワードを忘れた場合の復旧方法
端末紛失紛失端末から利用を停止できるか
記録管理操作や利用状況を確認できるか
サポート問い合わせ窓口と対応言語
データ管理保存場所、契約条件、バックアップ方法

特に重要なのは、パスワード管理ツールのマスターパスワードを使い回さず、ツール自体にも多要素認証を設定することです。

多要素認証とは

多要素認証、MFAとは、異なる種類の要素を2つ以上組み合わせて本人確認を行う仕組みです。

認証要素意味
知識情報本人が知っているものパスワード、PIN
所持情報本人が持っているものスマートフォン、セキュリティキー
生体情報本人の身体的な特徴指紋、顔

たとえば、「パスワードを入力したあと、登録したスマートフォンの認証アプリで承認する」という方法は、知識情報と所持情報を組み合わせています。多要素認証は不正ログイン防止に有効ですが、すべての攻撃を完全に防ぐものではありません。身に覚えのない承認要求を許可したり、確認コードを偽サイトへ入力したりしないよう、社員への案内も必要です。

多要素認証を優先するアカウント

最優先

  • Microsoft 365やGoogle Workspaceの管理者
  • 業務用メール
  • パスワード管理ツール
  • インターネットバンキング
  • VPNやリモート接続
  • Webサイトやドメインの管理画面

次に対応

  • 会計・給与・販売管理
  • クラウドストレージ
  • 顧客管理システム
  • バックアップサービス
  • SNSや広告アカウント

順次対応

  • 勤怠管理
  • 社内チャット
  • ファイル転送サービス
  • 閲覧専用の業務サービス
段階導入の考え方
担当者「全社員分を一度に設定するのは難しそうです。」
セキスペパートナー「まず管理者と業務用メールです。少人数で試してから全社へ広げれば大丈夫です。」

中小企業が多要素認証を導入する7つの手順

手順1.利用中のサービスを一覧にする

目的は、多要素認証の対象と優先順位を判断できるようにすることです。総務担当者またはIT兼任担当者が中心となり、各部署と外部IT業者へ確認します。

  • サービス名
  • 利用目的
  • 利用者または部署
  • 管理者
  • 管理者権限を持つ人数
  • 多要素認証の設定状況
  • 使用している認証方法
  • 外部IT業者の管理範囲
  • 最終確認日
  • 未対応事項

完了条件:メール、クラウド、VPN、会計、Webサイトなど、重要サービスの管理者と多要素認証の状態が分かること。

手順2.導入の優先順位を決める

管理者権限、パスワード再設定、顧客情報、金銭処理、社外アクセス、取引先への影響を基準にします。まず管理者とメール、次にVPN、会計、クラウドストレージなどへ広げます。

完了条件:優先順位と対応対象が決まっていること。

手順3.利用できる認証方法を確認する

認証アプリ、確認通知、パスキー、セキュリティキー、SMS、音声通話、ワンタイムパスワード用トークンなど、サービスが対応する方式を確認します。未設定のままにせず、利用可能な方式で始め、必要に応じてより強い方式へ移行します。

完了条件:対象サービスで利用する認証方法が決まっていること。

手順4.管理者と少人数で試す

初回登録、通常ログイン、端末を忘れた場合、機種変更、通知が届かない場合、圏外での利用、予備の認証方法、管理者による復旧を確認します。

完了条件:通常ログインと復旧の両方を試し、社員向け案内を作成できた状態。

手順5.復旧方法を準備する

予備の認証方法、復旧用コード、管理者による解除、緊急連絡先、予備の管理者、退職時の解除を準備します。復旧用コードは利用端末とは別の安全な場所で、アクセスできる人を限定して保管します。

完了条件:担当者不在時にも復旧できること。

手順6.社員へ案内して段階的に展開する

対象サービス、登録期限、認証方法、私物スマートフォンの利用可否、問い合わせ先、不審な要求を承認しないこと、認証コードを教えないこと、紛失時の連絡先、機種変更前の手順を案内します。

完了条件:対象者が期限と問い合わせ先を理解していること。

手順7.設定状況を確認して記録する

管理画面やレポートで登録状況を確認し、対象者、サービス、登録状態、登録日、方式、未登録理由、担当者、期限、最終確認日を記録します。パスワードや認証コードは記録しません。

完了条件:対象者ごとの登録状況と未対応者が分かること。

Microsoft 365で導入する場合

Microsoft 365では、Authenticator、パスキー、Windows Hello for Business、SMS、音声通話、ハードウェアトークンなどの方法が案内されています。会社側では、セキュリティの既定値、条件付きアクセス、従来のユーザーごとのMFAの違いを確認します。契約プランと現在の設定によって利用できる機能が異なるため、実際の変更前に最新の公式手順と外部IT業者の管理範囲を確認してください。

Google Workspaceで導入する場合

  • 社員へ導入計画を通知する
  • 利用者が2段階認証を登録できるようにする
  • 社員に登録してもらう
  • 管理画面で登録状況を確認する
  • 登録済みであることを確認してから適用する

認証方法として、セキュリティキー、Googleからのメッセージ、認証アプリ、バックアップコード、SMSや電話、パスキーなどが案内されています。全社員へ即時に強制する前に、未登録者が残っていないかを確認してください。

よくある失敗と勘違い

多要素認証を設定したため、パスワードは共通でもよい

多要素認証とパスワードの使い回し防止は別々の対策です。パスワードもサービスごとに分けます。

認証通知を内容を見ずに承認する

身に覚えのない通知は承認しません。「自分が今ログインしている場合だけ承認する」と伝えます。

復旧方法を準備せずに全社へ適用する

スマートフォンの紛失、故障、機種変更に備え、予備の方法と管理者による復旧手順を先に確認します。

私物スマートフォンの利用を当然と考える

会社として利用可否、費用、紛失時の連絡、退職時の解除方法を決め、難しい社員には代替手段を用意します。

管理者アカウントを複数人で共有する

個人ごとにアカウントを発行し、必要な人だけに管理者権限を付与します。

外部IT業者に任せたままにする

設定作業を委託していても、管理者、対象、復旧手順、緊急連絡先は自社でも把握します。

外部IT業者へ確認したい質問

  • 現在の管理者アカウントは誰が保有していますか
  • 管理者アカウントを複数人で共有していませんか
  • 多要素認証を適用できるサービスはどれですか
  • 現在の未登録者を確認できますか
  • 利用できる認証方法は何ですか
  • 契約プランによる制限はありますか
  • スマートフォン紛失時の復旧方法は何ですか
  • 復旧用コードや予備の認証方法はどこで管理していますか
  • 管理者が不在の場合、誰が解除できますか
  • 退職者の認証端末を解除する手順はありますか
  • 設定状況を一覧で出力できますか
  • 契約終了時に管理権限を自社へ引き渡せますか

回答はメールや議事録として残し、アカウント管理表へ確認日を記録します。

よくある質問

小規模な会社でも多要素認証は必要ですか?

はい。まずは管理者と業務用メールから設定してください。社員数よりも、アカウントが扱う権限や情報の重要性で優先順位を判断します。

無料で始められますか?

利用中のサービスに標準機能として用意されている場合があります。追加費用の有無や利用可能な方式は、契約プランと公式情報を確認してください。

SMS認証でもよいですか?

ほかの方式を利用できない場合の導入手段にはなります。サービスが認証アプリ、パスキー、セキュリティキーなどを提供している場合は、それぞれの特徴を比較します。

パスワードは会社で一括管理すべきですか?

社員のパスワードそのものを一覧へ集めるのではなく、会社が認める管理方法とルールを統一します。共有が必要な業務アカウントは、管理ツールの共有機能などを検討してください。

外部IT業者へ任せればよいですか?

設定作業は依頼できますが、対象サービス、管理者、復旧方法、未登録者は自社でも把握します。

多要素認証は法律上の義務ですか?

すべての中小企業、すべてのサービスに一律で課される一般的な法的義務とは限りません。業界ルール、委託契約、取引先の要求、利用サービスの条件を個別に確認してください。

まとめ:まず管理者とメールから始めよう

  • 利用サービスと管理者を把握する
  • パスワードを使い回さない
  • 会社が認める保管方法を決める
  • 管理者とメールへ多要素認証を設定する
  • 紛失や機種変更に備えて復旧方法を用意する
  • 設定状況を記録し、未登録者を確認する
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この記事を書いた人

金融系のデータサイエンティスト・コンサルタントとして、データ活用やIT管理、情報セキュリティ、プロジェクト推進に関する業務を経験。PMP、AWS関連資格、情報処理安全確保支援士資格を保有。専任担当者がいない中小企業でも実践できる情報セキュリティ・IT管理の方法を発信しています。

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