社員がChatGPTなどの生成AIを使い始めたものの、社外秘や個人情報を入力しないか不安ではありませんか。情報漏えいを防ぐには、利用を全面禁止するのではなく、入力禁止情報や承認方法、誤入力時の報告先を明確にすることが重要です。本記事では、中小企業でも運用しやすい社内利用規程の作り方を、ひな形とチェックリスト付きで解説します。
社内でAIを使うときは5つのルールを決めてから使おう!
1. 利用を認める生成AIサービス
2. 入力してはいけない情報
3. 入力前の匿名化・削除方法
4. 生成結果の確認方法
5. 誤入力時の報告手順
なぜ生成AIの社内利用規程が必要なのか
生成AIは文章作成、要約、翻訳、アイデア整理などに利用できます。一方、入力欄を社内の検索窓のように考えると、取引先資料や顧客情報をそのまま貼り付ける可能性があります。ルールでは、禁止事項だけでなく、利用できる範囲、相談先、事故時の連絡手順まで示します。
IPAの「テキスト生成AIの導入・運用ガイドライン」は、組織で生成AIを運用する際の利活用ガイドラインやルールの策定・文書化、リスク管理などを扱っています。個人情報保護委員会も、生成AIサービス利用に関する注意喚起を公表しています。
| 社長と担当者の会話 社長「社員に『気をつけて使って』と伝えるだけでは駄目なのか?」 担当者「何が社外秘なのか、人によって判断が変わります。入力禁止情報を具体的に決める必要があります。」 社長「禁止事項だけでなく、使ってよい範囲も示した方がよさそうだな。」 |
ルールなく生成AIを使うと何が起こるのか
生成AIの利用ルールがない状態では、社員ごとに「入力してよい情報」「回答をどこまで信用するか」「どのサービスを使うか」の判断が分かれます。その結果、次のような問題が起こる可能性があります。
● 社外秘・個人情報の漏えい:顧客名簿、契約書、会議資料などをそのまま入力し、会社が把握しないまま外部サービスへ情報を渡してしまう可能性があります。
● 誤った回答の業務利用:生成AIの回答を確認せず、社外向けメール、提案書、手順書などに使うと、事実誤認や古い情報がそのまま伝わるおそれがあります。
● 著作権や契約上の問題:生成結果や第三者の資料を権利関係を確認せず利用すると、著作権、利用条件、NDAなどに抵触する可能性があります。
● 未承認サービスの常態化:社員が個人アカウントや無料サービスを使い始めると、会社が利用状況、保存先、退職時のアカウント停止を把握できなくなります。
● 事故対応の遅れ:誤入力時の報告先が決まっていないと、本人が履歴を削除して終わらせたり、報告をためらったりして、認証情報の変更や関係者への連絡が遅れる可能性があります。
● 業務品質のばらつき:確認方法や利用範囲が統一されていないと、担当者によって成果物の品質や安全性に差が生じます。
問題は「生成AIを使うこと」そのものではなく、利用範囲と確認手順が決まっていないことです。禁止だけで終わらせず、安全に使える用途、入力禁止情報、確認者、事故時の連絡先を明確にします。
生成AIに入力してはいけない情報
| 情報の種類 | 具体例 |
| 個人情報 | 顧客・社員の氏名、住所、メールアドレス、履歴書、人事情報 |
| 顧客・取引先情報 | 顧客一覧、商談記録、問い合わせ内容、受領資料 |
| 契約上の秘密情報 | NDA対象資料、未公開設計書、取引条件、提案書 |
| 経営・営業情報 | 売上計画、原価、見積金額、未発表の事業計画 |
| 技術情報 | ソースコード、システム構成図、脆弱性情報、開発中仕様 |
| 認証情報 | ID、パスワード、APIキー、秘密鍵、接続情報 |
| セキュリティ情報 | 管理者アカウント、権限一覧、ネットワーク構成 |
第三者から預かっている機密情報は、NDAや契約の目的外利用、第三者開示、返還・削除条件との関係を確認します。契約上の禁止が明確でない場合も、自己判断で入力せず、契約内容と利用サービスの条件を確認します。
匿名化すれば入力できるとは限らない
氏名をA社や担当者へ置き換えても、案件名、金額、日付、地域、経緯の組み合わせから対象を推測できる場合があります。複数の情報を組み合わせても対象を推測できない状態にし、入力する範囲を目的に必要な最小限へ減らします。
| 加工前 | 加工後 |
| 株式会社みどり商事の山田太郎さんから、8月20日納品予定の新製品Aについて苦情がありました。返信メールを作ってください。 | 取引先の担当者から納期に関する苦情がありました。相手を責めず、状況を確認する返信メールのひな形を作ってください。 |
社内利用規程を作る7つの手順
1. 利用状況を把握する
総務担当者が、利用サービス、契約形態、用途、ファイルアップロード、外部連携、利用端末を確認します。利用者を責める調査ではなく、安全に使う範囲を決める調査だと説明します。完了条件は、利用者・サービス・用途・契約者の一覧化です。
2. 利用を認めるサービスを決める
入力データの学習利用、保存期間、削除方法、管理者機能、多要素認証、退職者停止、ログ、問い合わせ先、契約条件を公式資料で確認します。有料版という理由だけで社外秘を入力できるとは判断しません。
3. 入力禁止情報を具体化する
既存の情報管理規程があれば分類を合わせます。「社外秘」だけで終わらせず、個人情報、契約情報、認証情報、未公開情報などを具体例付きで示します。
4. 認める使い方と禁止する使い方を決める
公開情報の要約、一般的な文章ひな形、架空データでの作業などは認めやすい用途です。顧客名簿、契約書、認証情報の入力、回答未確認での社外送付などは禁止例として示します。
5. 確認・承認の流れを決める
公開情報のみなら本人確認、社内資料の加工利用は部門責任者、新サービス導入や連携機能は管理責任者など、判断内容ごとの確認者を決めます。申請日、目的、入力情報、承認者を記録します。
6. 誤入力時の報告手順を決める
追加入力を止め、入力内容・時刻・サービス・アカウントを記録し、上長と管理者へ報告します。認証情報なら直ちに変更・無効化し、顧客情報や個人情報を含む場合は責任者が追加対応を判断します。
7. 周知・教育・見直しを行う
入力禁止情報、加工例、承認済みサービス、生成結果の確認、相談先、事故報告を短時間で説明します。半年ごとの定期見直しに加え、新サービス導入、規約変更、事故発生時にも見直します。
情報分類の運用例
| 分類 | 情報の例 | 生成AIへの入力 |
| 公開情報 | 自社Webサイト、公開済みパンフレット | 承認済みサービスに入力可 |
| 社内情報 | 社内手順書、議事録、社内連絡 | 原則禁止。必要時は承認 |
| 機密情報 | 個人情報、顧客情報、契約情報、認証情報 | 入力禁止 |
これは社内運用の一例です。既存の情報管理規程がある場合は、その分類を優先してください。
生成AIサービス社内利用規程のひな形
以下は従業員10〜100人程度の中小企業を想定した簡易版です。自社の契約、情報管理規程、業務内容に合わせて変更してください。
第1条 目的
本規程は、当社の役員および従業員が生成AIサービスを業務で利用する際の基本的なルールを定め、当社、顧客、取引先および従業員の情報を適切に取り扱うことを目的とする。
第2条 対象者
本規程は、当社の役員、従業員、派遣社員、業務委託者その他当社の情報を取り扱う者に適用する。
第3条 利用できるサービス
業務で利用できる生成AIサービスは当社が承認したサービスに限る。個人契約または未承認のサービスを業務目的で利用してはならない。新サービスの利用希望者は、利用目的と取扱情報を明らかにし、管理者の承認を受ける。
第4条 入力を禁止する情報
個人情報、契約上の秘密情報、社外秘・秘密・極秘情報、未公開の経営・営業・技術・人事・財務情報、認証情報、未公開のソースコードやシステム構成、権限未確認の第三者著作物、管理者が禁止した情報を入力またはアップロードしてはならない。
第5条 入力情報の削減
入力は目的達成に必要な最小限とし、氏名、会社名、案件名、金額、日付等は可能な範囲で削除または一般化する。削除後も対象を推測できる場合は入力しない。判断できない場合は入力前に上長または管理者へ確認する。
第6条 生成結果の確認
生成結果には誤りが含まれる可能性があるため、利用者が内容を確認する。専門的判断はAI回答だけで行わない。社外送付・公開前に、担当者が事実、権利関係、社内ルールとの整合を確認する。
第7条 ファイル・外部連携
管理者の承認なく、社内ストレージ、メール、顧客管理システムその他の社内サービスを生成AIへ連携してはならない。
第8条 事故発生時の報告
禁止情報を誤入力した者は、追加入力と共有を中止し、直ちに上長および管理者へ報告する。発生日時、サービス、入力内容、添付の有無、実施対応を記録する。
第9条 教育
当社は利用者に対し、本規程、入力禁止情報、誤入力時の対応、生成結果の確認方法に関する教育を行う。
第10条 管理と見直し
管理者は利用サービス、利用者、利用目的を把握する。本規程はサービス仕様、契約条件、法令、利用状況、事故状況に応じて見直し、改定内容を周知する。
よくある失敗
「社外秘を入力しない」としか書かない
判断基準が人によって変わるため、資料や情報の具体例を示します。
無料版だけを禁止して終わる
契約形態だけでなく、入力データの取扱い、保存、管理機能も確認します。
規程を配布するだけで説明しない
入力できる例・できない例を使って説明します。
生成結果の確認ルールがない
誤情報、権利関係、個人情報、契約条件を誰が確認するか決めます。
誤入力時の報告先がない
削除や報告を利用者任せにせず、責任者と記録項目を決めます。
全面禁止で実態が見えなくなる
禁止理由、対象、相談先、代替手段を明確にします。
よくある質問
小規模な会社でも規程は必要ですか
業務で生成AIを利用しているなら、簡単なルールから始めることをおすすめします。利用サービス、禁止情報、確認者、事故時の連絡先を1ページにまとめる方法でも構いません。
有料版なら社外秘を入力できますか
有料版であることだけでは判断できません。契約プランごとのデータ取扱い、保存、学習利用、管理機能を確認し、自社の契約と情報分類に照らして決めます。
氏名を消せば個人情報を入力できますか
氏名以外の所属、役職、案件、地域、日付などから個人を推測できる場合があります。必要のない情報を削除し、判断できない場合は入力しません。
取引先資料を要約させてもよいですか
契約と利用条件を確認できるまで無断で入力しません。第三者開示、目的外利用、再委託などの制限を確認します。
外部IT業者へ任せればよいですか
技術確認は依頼できますが、利用目的や入力可能情報は自社でも決めます。最終的な業務ルールは経営者と情報管理部門が判断します。
誤入力後、履歴を削除すれば終わりですか
履歴削除だけで終了せず、社内責任者へ報告します。認証情報は変更・無効化し、顧客情報や個人情報を含む場合は追加対応の要否を判断します。
まとめ
生成AIに社外秘データを入力させないためには、利用できるサービス、入力禁止情報、匿名化・置換、承認方法、生成結果の確認、誤入力時の報告、教育と見直しを明文化します。まずは社員が利用している生成AIサービスを一覧にし、正式な規程ができるまで「未承認の生成AIへ社外に公開していない情報を入力しない」と周知しましょう。
参考情報
- IPA「テキスト生成AIの導入・運用ガイドライン」 https://www.ipa.go.jp/jinzai/ics/core_human_resource/final_project/2024/generative-ai-guideline.html
- 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」 https://www.ppc.go.jp/news/careful_information/230602_AI_utilize_alert/
注:利用予定サービスの最新の利用規約、プライバシー関連資料、自社の契約条件を確認してください。本記事は一般的な実務整理であり、個別案件の法的判断を示すものではありません。

